結論
実家の菩提寺、住職がご高齢で跡取りがいないと聞きました。うちの墓はどうなりますか
住職がいなくなっても、寺はすぐには消えません。宗教法人法は代表役員が欠けたら代務者を置くと定め、任意解散のときは檀家に2か月以上の意見申述の機会を公告します。全国の宗教法人は178,537法人で1年に384法人減。磐田市の118件のうち現地で寺と確認できたのは96件でした。最後は菩提寺にご確認を。
全国の宗教法人は178,537法人。1年で384法人減った
文化庁が令和7年12月に公表した宗教統計調査によると、全国の宗教法人は178,537法人だった(令和6年12月31日現在)。前回の178,921法人から384法人減っている。このうち神社・寺院・教会などの「単位宗教法人」に絞ると仏教系は76,493法人で、こちらは1年間に109法人の減である。
17万8千という数をそのまま磐田の話に持ってきても意味がない。不動産の仕事柄、大きな数字は必ず自分の商圏に割り戻す癖がついている。静岡県知事所轄宗教法人名簿(令和5年3月31日現在)によれば、磐田市に事務所を置く宗教法人は291法人で、うち仏教系が118法人。全国の仏教系76,493法人に対して、磐田の118法人は0.15%にあたる。年109法人の減をこの比率でざっくり按分すると、1年あたり0.17法人。6年に1か寺という計算になる。
この数字を出しておいて言うのも変だが、私はこの「6年に1か寺」をあまり信用していない。磐田で6年に1度しか寺が閉じていない実感は無いからだ。減っているのは法人の登記であって、寺としての機能ではない。宗派ごとの内訳が公表されていない事情は静岡県の寺院2,602か寺|宗派の割合は公表されていないに書いた。統計の粒度と現地の粒度は別物である。
減っているのは法人と信者。仏教系の僧侶は1年で1万586人増えている
同じ宗教統計調査には、意外な数字が並んでいる。仏教系の教師(各宗派が定める資格を持つ僧侶)は359,390人で、前回の348,804人から10,586人増えた。いっぽう仏教系の信者は80,463,918人で、前回の81,069,419人から605,501人減っている。法人が減り、信者が60万人減り、僧侶だけが1万人増えた形になる。
ここは慎重に読む必要がある。文化庁は同じ資料に注記を付けている。「教師は、それぞれの宗教団体の定める教師数を記載しているもので、各宗教団体に共通する基準はありません」。誰を教師として数えるかが宗派ごとに違うという断り書きである。だから「日本の僧侶が1年で1万人増えた」とは読めない。読めるのは、各宗派が自分で数えた人数の合計がそう動いたことだけだ。
私はこの数字を、後継者不足を否定する材料には使わない。全国の合計は地域ごとの偏りを消してしまう。宗派が自分で公表している資料は、この合計とは逆を向いている。
「不活動宗教法人」は5,286法人。静岡県は1年で86から129へ
文化庁が2026年7月29日に公表した令和7年「不活動宗教法人の状況等に関する調査」によると、不活動宗教法人は全国で5,286法人だった(令和7年12月31日現在)。文化庁はこれを「宗教活動は行っていないが、法人格のみ存在していると推定される法人」と定義している。前年から267法人の増である。
静岡県は129法人で、令和6年12月末の86法人から43法人増えた。内訳は被包括宗教法人114、単立宗教法人15。静岡県内の宗教法人6,012法人(宗教年鑑 令和7年版・令和6年12月31日現在)に対して、約47法人に1つが「法人格だけが残っている」と見られていることになる。
この増え方を「1年半で1.5倍に急増した」と読むのは間違いである。文化庁は令和5年3月31日付の通知で不活動宗教法人の判断基準を新たに定め、都道府県向けの補助事業も設けた。同庁自身が「令和5年以降、都道府県(所轄庁)おける不活動宗教法人の対策(把握・整理)が進んでいる」と書いている。増えたのは実数ではなく、把握できた数だ。整理された法人も令和7年に403件あり、うち解散命令は90件で前年比4.3倍だった。
檀家の側から見て気になるのは、放置した場合に何が起きるかである。文化庁の通知はこう書いている。不活動宗教法人を放置すると「第三者により法人格が不正に取得され、脱税や営利目的の行為に悪用される等の問題につながるおそれがある」。私が空き家の相談で一番怖いのも同じ構図である。持ち主が分からなくなった器は、必ず誰かに使われる。寺が閉じること自体より、閉じたあと誰も名乗り出ない期間のほうが危ない、と私は考えている。
磐田で現地確認できたのは118件中96件。曹洞宗は2045年を自分で書いている
ATAWI TEMPLEは磐田市の寺院・関連宗教法人118件を収録しているが、現存を確認できたのは96件、全体の81.4%である(2026年8月31日時点の当データベース集計)。残る22件の内訳は、現地痕跡未確認16件、寺院跡・廃寺4件、地域管理の旧寺院1件、所在地・現況不明1件。現地痕跡未確認の16件のうち9件は豊岡地区に集まっている。
1件だけ具体を挙げる。磐田市新出613番地の明泉寺(曹洞宗・御厨地区)は、県の名簿には宗教法人として載っている。当データベースの2026年7月15日の現地確認では、寺院として開かれた本堂も常駐の寺務所も確認できず、寺の名前は新出公会堂の表札、墓地脇の石碑、畑の中の小祠に残っていた。名簿の上の「現存」と、現地の「地域で管理している状態」が重なっている。
名簿の数字は、現地より何十年も遅れて動く。登記は誰かが手続きしない限り変わらないが、本堂は誰も手続きしなくても傷む。私が家の査定で登記簿より先に現地を見るのと、理屈はまったく同じである。
宗派の側は、この遅れを自分で数字にしている。磐田市の118件のうち曹洞宗は62か寺、52.5%を占める最大宗派だ。その曹洞宗の宗務庁運営企画室が令和6年11月に公表した『曹洞宗2045年予測』は、こう書いている。「2045年には2カ寺に1カ寺の割合で兼務または無住職寺院となる予測である」。2024年時点で兼務寺院を持たない住職は約75.8%だが、その前提が20年で崩れるという見通しだ。同資料によると2024年7月時点の無住職寺院は494カ寺、70代以上の教師の割合は全国平均で35.3%、宗務所によっては40%から51%に達する。ただしこれは全国の予測であって、磐田の62か寺がそうなると決まったわけではない。
同じ資料に、不動産屋の目が止まる一文がある。住職が未就任のまま5年以上経った寺院の墓地面積を合計すると、約11万7千平方メートル、東京ドーム約2.5個分になるという。1区画4平方メートルの墓に割り戻せば、ざっと2万9千区画分だ。曹洞宗は、合併・解散が進まない大きな要因として「境内や墓地など寺院の残余財産の処分が難しいこと」を挙げている。誰も住んでいないのに片づけられない、というのは実家じまいで毎回ぶつかる壁と同じである。承継者が絶えた墓がどう扱われるかは無縁墓になるとどうなる|撤去に着手した自治体は6.1%に整理した。
正直に書くと、私は磐田で今どれだけの寺に住職が常駐しているのか、答えを持っていない。ATAWI TEMPLEは118件すべてについて、住職の常駐状況を「未確認」のままにしている。現地に行っても、留守なのか無住なのかは外から見分けられない。分かるのは、名簿に載っていても現地で寺として確認できない例が22件ある、というところまでだ。
檀家の側にできること。宗教法人法が用意している2つの機会
公益財団法人全日本仏教会と大和証券が2023年3月1日に公表した「仏教に関する実態把握調査(2022年度)報告書」に、檀家の側の実情が出ている。菩提寺がある3,288人のうち、菩提寺の経営状況を「充分把握している」は2.7%、「なんとなく把握している」を足しても19.2%。「経営の情報をもらったことがない」が47.9%で、ほぼ半数だった。後継者の話が突然来るように感じられるのは、それまで情報が流れていないからだと私は見ている。
同じ調査で、お寺が解散・廃寺になった場合に「困る」と答えた人は全体の29.3%、「困らない」は30.5%と拮抗していた。ただし菩提寺がある60代以上に限ると「困る」が43.9%になる。困る内容は「お墓が無くなる」30.5%、「葬儀に困る」29.9%、「法事・法要に困る」29.6%の順だった。廃寺にならないために必要な対応としては「複数のお寺を合併・吸収する」44.0%が「早い段階での住職後継者の決定・育成」42.4%をわずかに上回っている。檀家の側も、跡取りを立てることだけが答えだとは思っていない。
制度の側には、檀家が関われる場面が2つ用意されている。1つは宗教法人法(昭和26年法律第126号)第20条で、代表役員が死亡などで欠けてすぐに後任を選べないときは、規則の定めにより代務者を置かなければならない。もう1つは同法第44条で、宗教法人が任意に解散するときは、信者その他の利害関係人に対し「二月を下らない一定の期間内」に意見を申し述べるべき旨を公告しなければならない。意見が出た場合、法人には解散手続を進めるかどうかを再検討する義務がある。檀家は、この公告を通じて意見を言える立場にある。逆に、1年以上にわたって代表役員とその代務者を欠いた法人は、同法第81条第1項第4号により裁判所の解散命令の対象になる。檀家という関係の成り立ちは檀家制度とはにまとめてある。
私が実家じまいの相談で案内しているのは、寺の将来を心配するより先に自分の家の情報を揃えることである。寺がどうなるかを檀家は決められない。決められるのは、どの寺と、どの墓と、誰の名義でつながっているかを把握しておくことだけだ。
今日できる確認を3つ挙げる。どれも費用はかからない。
- 菩提寺の宗派を、派まで含めて1行で書く。「曹洞宗」なのか「臨済宗妙心寺派」なのか。合わせて、その寺が本山などに属する被包括宗教法人なのか、どこにも属さない単立宗教法人なのかも聞いておく。単立の場合、住職が欠けたときに助けに入る包括団体がない。
- 総代(責任役員)の名前と連絡先を1人書き出す。住職が代わるときも、解散の公告が出るときも、最初に事情を知っているのは総代である。菩提寺が遠方なら、この1人の連絡先が唯一の窓口になる。
- 墓地使用者の名義を、書面で確認する。墓地使用許可証、使用規則、寺からの案内状のあて名。名義人が故人のままだと、寺の側が動くときに誰へ連絡すればよいか分からなくなる。
今日、菩提寺の将来について結論を出す必要は無い。宗派と総代と名義の3行が手元にあれば、寺が続いても、兼務になっても、合併の話が出ても、必ず同じ3行から話を始められる。決めるための材料が1つ増えた状態を、今日の成果としてよい。菩提寺との付き合い方をまとめた記事は菩提寺の記事一覧から探せる。
最後にことわっておく。ここに書いた数字は文化庁と曹洞宗宗務庁と全日本仏教会が公表しているもので、磐田市内の個別の寺院について述べたものではない。宗派・寺院・地域で事情はまったく違う。うちの菩提寺がどうなのかは、そこに聞くしかない。費用や手続きの話も含めて、最後は菩提寺にご確認いただきたい。
FAQ
よくある確認
菩提寺の住職がいなくなったら、うちの墓はすぐ撤去されますか。
住職がいなくなることと、墓が撤去されることは別です。宗教法人法第20条は、代表役員が欠けてすぐに後任を選べないとき代務者を置くと定めており、実際には近隣寺院の住職が兼務住職として入る例が多くあります。曹洞宗は2045年に2カ寺に1カ寺が兼務または無住職になると予測しています。最後は菩提寺にご確認ください。
寺が解散するとき、檀家に知らせは来ますか。
任意に解散する場合は来ます。宗教法人法第44条は、信者その他の利害関係人に対し「二月を下らない一定の期間内」に意見を申し述べるべき旨を公告するよう定め、意見が出たときは解散手続を進めるかどうか再検討する義務も置いています。裁判所の解散命令による場合は手続が異なります。詳しくは菩提寺と所轄庁にご確認ください。
磐田市に住職のいない寺は何か寺ありますか。
公表されていません。文化庁の令和7年調査で静岡県の不活動宗教法人が129法人(令和7年12月31日現在)と分かりますが、市町別や寺社別の内訳は出ていません。ATAWI TEMPLEも磐田市の118件すべてで住職の常駐状況を未確認としています。分かるのは、名簿にあっても現地で寺として確認できない例が22件あることまでです。
Links
あわせて読む
Sources
出典・確認先
- 参考 文化庁「令和7年の宗教統計調査の結果を公表します」(令和7年12月)
令和6年12月31日現在。全ての宗教法人数178,537法人(前回178,921法人から384法人の減)、単位宗教法人のうち仏教系76,493法人(前回76,602法人から109法人の減)、教師のうち仏教系359,390人(前回348,804人から10,586人の増)、信者のうち仏教系80,463,918人(前回81,069,419人から605,501人の減)を確認。「教師は、それぞれの宗教団体の定める教師数を記載しているもので、各宗教団体に共通する基準はありません」の注記も確認。2026年8月確認
- 参考 文化庁編『宗教年鑑 令和7年版』第2部 宗教統計
令和6年12月31日現在。都道府県別表で静岡県の宗教法人6,012法人(神道系2,930・仏教系2,596・キリスト教系114・諸教372)、静岡県の寺院2,602を確認。2026年8月確認
- 参考 文化庁「令和7年『不活動宗教法人の状況等に関する調査』結果を公表します」(令和8年7月29日)
令和7年12月31日現在で5,286法人(対前年267法人増)。静岡県は129法人(令和6年12月末86法人、被包括114・単立15)。令和7年の整理は403法人で解散命令90件・前年比4.3倍。定義「宗教活動は行っていないが、法人格のみ存在していると推定される法人」、および参考1の通知にある「第三者により法人格が不正に取得され、脱税や営利目的の行為に悪用される等の問題につながるおそれ」の記載を確認。2026年8月確認
- 参考 曹洞宗宗務庁 運営企画室『曹洞宗2045年予測』(令和6年11月)
「2045年には2カ寺に1カ寺の割合で兼務または無住職寺院となる予測である」「2024年時点で兼務寺院を持たない住職は約75.8%」、無住職寺院494カ寺、70代以上の教師の割合は全国平均35.3%(宗務所により40%〜51%)、住職未就任5年以上の寺院の墓地面積合計 約11万7千平方メートル(東京ドーム約2.5個分)、合併・解散が進まない要因として「境内や墓地など寺院の残余財産の処分が難しいこと」の記載を確認。2026年8月確認
- 参考 曹洞宗宗務庁 伝道部 過疎地寺院振興対策室「『無住職寺院実態調査』についての調査結果と考察の概要」
2022年10月12日掲載。令和4年4月4日時点で代表役員が就任していない寺院400カ寺へ調査し有効票288カ寺。「後継予定者なし」64.6%(186カ寺)、今後の展望は「合併・解散」60.0%(111カ寺)を確認。2026年8月確認
- 参考 公益財団法人全日本仏教会・大和証券株式会社「仏教に関する実態把握調査(2022年度)報告書」
2023年3月1日公表。全国の20〜79歳、ウェイトバック後6,184サンプル。お寺が解散・廃寺になると「困る」29.3%/「困らない」30.5%、菩提寺有り60代以上は「困る」43.9%。困る内容は「お墓が無くなる」30.5%・「葬儀に困る」29.9%・「法事・法要に困る」29.6%。廃寺にならないための対応は「複数のお寺を合併・吸収する」44.0%・「早い段階での住職後継者の決定・育成」42.4%。菩提寺有り3,288人のうち経営状況を「充分把握している」2.7%、「なんとなく把握している」を含め19.2%、「経営の情報をもらったことがない」47.9%を確認。2026年8月確認
- 参考 宗教法人法(昭和26年法律第126号)e-Gov法令検索
第20条(代務者を置かなければならない場合)、第44条(任意解散にあたり信者その他の利害関係人へ二月を下らない期間の意見申述を公告し、意見があれば再検討する義務)、第81条第1項第4号(1年以上にわたって代表役員及びその代務者を欠いていることが解散命令の事由)を確認。2026年8月確認
- 参考 静岡県総務部法務文書課「宗教法人名簿」(静岡県知事所轄宗教法人名簿・令和5年3月31日現在)
令和5年3月31日現在で静岡県知事所轄宗教法人は6,017法人。名簿目次の磐田市は291法人。2026年8月確認
- 参考 ATAWI TEMPLE 寺院データベース(磐田市)
収録118件のうち現存確認96件(81.4%)。残る22件は現地痕跡未確認16件、寺院跡・廃寺4件、地域管理の旧寺院1件、所在地・現況不明1件。現地痕跡未確認16件のうち9件が豊岡地区。宗派別は曹洞宗62か寺(52.5%)。住職の常駐状況は118件すべて未確認。明泉寺(磐田市新出613番地・曹洞宗)は2026年7月15日の現地確認による。2026年8月31日時点の集計。2026年8月確認
制度・金額・期限は変わります。相続、税、登記にかかわる個別の判断は、税理士・司法書士などの専門家と菩提寺にご確認ください。 本記事は一般的な情報であり、特定の寺院・家・土地についての判断ではありません。